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スキンケア理論

スキンケアの実際

臨床でのアトピーの病態と診断

イメージアトピー性皮膚炎を確定診断する検査法がなく、症状やいくつかの検査から総合的に判断します。なので、それらのデータの意味を理解しておくことが重要です。

症状 ―― 痒み

アトピーは症状として“痒み”がでます。
アトピーは進行性の病気で、初期には軽度の痒みが出て、だんだん痒みが強くなる。痒みを伴わない皮膚炎は、基本的にアトピーではないと考えます。
痒みを主な症状とする皮膚病には他に感染症と角化症があって、これらと区別することと、同時に発病している可能性をよく考えます。

症状 ―― 病気の時間的な流れ
アトピーの8割は3歳までに発症し、9割が4歳までに発病します。
老齢犬での発病は他の病気との鑑別が大切です。
アトピーは初期には、増悪期→緩回期→無症状期→増悪期を繰り返す病気で、進行すると一年中症状が出るようになります。
症状 ―― 皮疹

アトピーは左右対称性で生体のお腹側にだけ赤みを伴う皮疹を発症します。
背中側にのみ皮疹が見られたなら他の皮膚病を疑います。
また、お腹側中心で背中側にも病変を伴うときには、アトピーではないのではないか?と疑うとともにアトピーに他の皮膚病が併発している可能性も考えます。
この場合、多くはシャンプーによる接触性皮膚炎かノミアレルギー性皮膚炎です。
注意すべきなのは、アトピーはときに皮疹を伴わない、あるいは伴わない時期がある点で、そしてそれを治ったと誤解することである。

アトピー皮膚の状態は"バリアレススキン"という言葉で表わすことができますが、この状態ではふつう、ドライスキンになるのでAD(アトピックドライスキン)とよばれます。
皮膚の代謝に必要な水分を維持するMNF(天然保湿因子皮膚の中のコラーゲンやヒアルロン酸など)と皮膚バリアに重要な、細胞間脂質や皮表脂質(セラミドなど)が減少した状態です。
このバリアレスの状態は見た目は健康な皮膚に見えるために確認できず、反応が出て赤くなったときに初めて皮膚病としてあつかわれます。
つまり、アトピーでは眼で見て正常な皮膚が病気がなくなったことを意味するわけではありません。
アトピーは初期には、増悪期→緩回期→無症状期→増悪期を繰り返します。このときの見た目と症状は、赤くてかゆい→軽くなる→見た目が正常になってかゆみもなくなる→赤くてかゆい となります。

検査 ―― 寄生虫の検査
すべての皮膚病で寄生虫の検査が必要です。実際の転院例でも寄生虫性の皮膚疾患をアトピー性皮膚炎と誤診されている例が時々あります。
また、本当にアトピー性皮膚炎であっても、長期にわたるコントロール期間中に寄生虫感染することもあるので、定期的な検査が必要になります。
特に、長期的にステロイド剤を投与されているときにはニキビダニが検出されることがあります。
検査 ―― 血液検査
アトピー性皮膚炎の血液検査は存在しません。かなり誤解されているのは血清学的IgE検査でしょう。
血液中のIgE濃度とアトピー性皮膚炎の皮膚症状とは何の相関もないことが証明されています。
血液中のIgEを証明することは、過去にその抗原と接触があった可能性があること、それに対して抗体反応が出ているという点以外に、何の意味もありません。
検査 ―― 除去食試験
アトピー性皮膚炎と食物有害反応(かつては食餌性アレルギーとよばれていました)と区別するために重要です。
食物有害反応はアトピー性皮膚炎との併発も多く、皮膚症状と食事との間に何らかの関連が疑われたなら、必ず実施しなければなりません。
検査 ―― テープストリップ
アトピー性皮膚炎の重症度の判別に必須の検査です。アトピーでは神経学的な痒み閾値の変化が伴うために、皮膚のダメージとかゆがり方は必ずしも一致しません。
スライドグラスに両面テープを貼り付け、病変部皮膚に押し当てて体表物質を採取し、HEあるいはデフクイックで染色して顕微鏡で観察します。体表に大量に油脂がある場合には油脂しか採取されない場合が多く、3回程度同じ場所で検体を採取し、確実に角質細胞が検体に存在することを確認し、付着した油脂の量、マラセチア、角質細胞を評価します。
角質細胞は健康な皮膚ではすべて角化が終了した無核の細胞が採取されますが、ターンオーバーの亢進した病変部の皮膚では錯角化、すなわち核のある細胞が観察されるので、その有核細胞の比率をカウントします。
有核細胞比率は、ときにアトピーの重症度を推定する最もよい指標になります。
見た目に異常のない部位でも有核細胞が検出されれば、炎症を証明できることがあります。
また、有核細胞比率の変化を観察することで治療効果を確認することができ、ときに症状からは効果がないと思えた治療法が実は効果を挙げていることや、逆に有効と判断した治療がじつは無効であることの判断ができます。

有核細胞が意味するのは生きている細胞が出てきているということで、その状況によってスキンケアの手法を変える必要があります。
大量に露出した生細胞にシャンプーなどの刺激性化学物質を接触させることはシャンプーの皮内注射と同等のダメージを皮膚に与えるからです。
検査 ―― ふけ

いわゆる“ふけ”は、はがれた角質細胞の塊です。健康な皮膚からも角質細胞は毎日大量に脱落していますが、細胞レベルまで分解されて脱落するので肉眼で確認することはできません。“ふけ”はなんらかの理由で細胞の分断化がなされずにシート状に剥離した角質細胞の集合体です。ときに乾燥した体液がふけのように見えることがありますが、これは区別されなければなりません。

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ふけの原因は2つあります。ひとつは乾燥によるふけで、ドライスキンによって細胞の接着を切断する酵素が働けずにシート状の角質細胞が脱落するケースで、皮膚は触診で乾燥傾向にあり、ふけを染色後、顕微鏡で観察するとすべて角化細胞でできています。もうひとつは炎症によって発生するふけで、ターンオーバーが短縮されたことによって十分に角化が終了していない細胞がシート状に脱落したもので、有核細胞でできています。皮膚は触診でウェットあるいはオイリーのことが多いようです。

 

慢性アトピーのスキンケア

慢性アトピーはスキンケアによってのみコントロールが可能です。薬物療法と同時にスキンケアを始めます。洗う回数の目安は週2回程度が最も効果的と考えられ、症状がかるくなっていくのににあわせて減らしていき、最終的には通常2週に1回程度で行います。

スキンケアをする前に皮膚病の重症度を確認するためにテープストリップ検査をします。角化細胞だけが採取された時には最小限のバリアがあると考え、刺激性の高くないシャンプーならほとんどが使用できます。
有核細胞が5%程度までならば低毒性かつ低刺激性のシャンプーを使い、それ以上であれば界面活性剤の毒性を考えて、ぬるいお湯だけで洗います。

保湿は重要で、シャンプー後には必ずしなければなりません。
しかし、犬用保湿剤には低質な製品も多く、全成分記載でないものや、少なくとも指定成分が入っているものは使わないほうがよいでしょう。

 

脂漏症とスキンケア

脂漏症は、角化症犬種のアトピーと関係していることがあります。
脂漏症の時に皮膚に分泌されるのは、コンディションの悪化した皮膚からの"病的な汚れ"すなわち、コレステロールや遊離脂肪酸などの皮膚に有害な分泌物と、加速したターンオーバーで蓄積した脱落角質細胞、そしてそこに繁殖した微生物、特にマラセチアです。
マラセチア抗原に対する皮内反応は脂漏症症例の約半数で陽性となります。

普通のアトピー犬よりもターンオーバーが亢進し、多くの場合、テープストリップ検査で有核細胞が見つかります。
スキンケアは普通のアトピー犬以上に大切で、薬物治療と同時に始めるほうがよいのですが、憎悪期の洗浄はシャンプーによる接触性皮膚炎を誘発する可能性が高いために、ぬるいお湯以外での洗浄はしないほうがよいでしょう。
洗浄では皮膚の上の大量の油脂が問題になるために、除去にはクレンジングを行う必要があります。十分に洗浄して水溶性の汚れを除去した後にクレンジングをします。
その後、シャンプーでクレンジング剤を除去した後、十分にすすいで保湿剤を使います。